株式会社イトーキとの共同研究(2022-23)
近年、環境負荷の低減や多様なユーザーニーズへの対応など、製品に求められる要素は増加の一途を辿っています。しかし、多くの配慮を盛り込むことは、製造エネルギーや材料使用量の増加に繋がる可能性もあり、一つの製品の中に全ての要求事項を共存させることは、ますます困難になりつつあります。
そのような状況の中、3Dプリンタをはじめとしたデジタルファブリケーションの普及により、パーツを1個から製造することが可能となり、個別のカスタマイズの道が開けてきました。
そこで、メーカーが適正品質の製品を効率的に量産し、製品単体では到達できない個々のニーズへの最後の一歩(ラストワンマイル)を、ユーザー自身がデジタルファブリケーションを活用して埋めていく。そのような仕組みを構築することで、相反する課題を解決できるのではないかと考え、株式会社イトーキのサリダPSデスクシリーズの新商品開発プロジェクトの中で、アドオンパーツの開発を進めました。
ユーザー自身がプロダクトのデザインや製造の一部を担うことで、製品への愛着が湧くとともに、モノの構造や材料について詳しくなる可能性があります。その結果、より長く使う方法や、適切な捨て方へ意識が向き、メーカーの努力のみに依存しない、理想的な物質の循環に繋がるのではないかと思います。
そのため、このプロジェクトは、製品と利用者との間に生じる多様なギャップを埋めるプロダクト/サービスの提案であるとともに、メーカーとユーザーの関係性を再定義する取り組みであると考えています。
3Dプリンタは自由度の高い設計が可能となることがメリットの一つですが、形状によっては、元データからの誤差が大きくなったり、出力ミスの可能性が高くなったりします。さらに、造形はできるものの、取り外しにくい場所にサポート材が付き、使用するまでに手作業での加工が必要な場合もあります。工業製品として品質管理された上で生産されるパーツと異なり、ユーザー自身が様々な3Dプリンタで製造する場合、機種ごとの造形特性の影響を抑える必要があります。
そこで、今回のアドオンパーツ開発の取り組みでは、3Dプリンタの特性を考慮した上で、機材のノウハウが無くても元データと近い状態で出力でき、可能な限り後加工をせずに使用できるようなデザインプロトコルを設定しました。
デザインプロトコル
●サポート材無しでも出力できる(出力時間短縮、材料削減、後加工省略、外観品質向上)
●どのプリンタで出しても誤差や出力ミスが少ない
●誤差が出ても使用に支障がない
●設計の制約を意匠に反映させる
・フレームにはめ合わせる部分の寸法誤差や、サポート材除去による表面の荒れを削減するため、全てのパーツを横倒しの状態で出力することを前提に設計する。
・サポート材無しでも造形できるように、45度以下の浅い角度のオーバーハング部が発生しないように設計する。
左)この向きで出力する場合、嵌合部にサポート材が必要。機材によっては、サポート材を除去した後の嵌合部の天面が荒れ、サイズの誤差が大きくなる。
右)横倒しでで出力するように統一した上で、他の部分にもサポート材が付かないように設計した。
左)デザインプロトコルを適用したパーツ
右)デザインプロトコルを適用していないパーツ(サポート材が付く)
45度以上の急な傾斜が存在しないように設計することで、サポート材を付けずに出力できる。
共通のデザインプロトコルに従って合計19種類のパーツを設計
開発したパーツは「サリダPSラックアドオン」として公開しました。
各パーツの3Dデータは以下のページからダウンロードすることができます。
今回のカスタイマイズパーツの開発を通して、ユーザー自身が製品の拡張する仕組みの提案を行いました。将来的には、各ユーザーが設計した3Dデータを共有するコミュニティが形成され、新たなカスタマイズパーツが次々に生まれ、製品の利便性が持続的にアップデートされる状況ができることを期待しています。
また、このプロジェクトは、製品と利用者との間に生じる多様なギャップを埋めるプロダクトの提案であるとともに、メーカーとユーザーの関係性を再定義する取り組みであると考えている。今回の取り組みをきっかけとして、デジタルファブリケーションを活用した新たな仕組みの検討を進めていきたいと考えます。